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天地開闢(てんちかいびゃく) [日本]

作成日:2019/8/3

天地開闢とは、 天と地が開闢した(開き分かれる)こと、 つまり世界の始まりのことである。

「もともと混沌として一つであった世界が、 天と地に分離した」とする中国の古代思想を背景に成り立っている。

国学者本居宣長の判断では、 「陰陽別れず、混沌として」の一文は中国の文(思想)から借りたもので、 「国土漂いて、魚の水に浮かべるが如くなり」の一文を、 「実の上ツ代の伝え」としている(『神世七代』)ことからも、 近世から中国思想の影響は指摘されていることである。

日本以外にも各地に創造神話、創世神話がある。

『古事記』の記述

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一般に、 日本神話の天地開闢といえば、 近代以降は『古事記』冒頭の「天地初発之時」が想起される。
ただし、 ここには天地がいかに創造されたかの記載はない。

別天津神(ことあまつかみ、わけあまつかみ)
別天津神は、『古事記』において、天地開闢の時に最初にあらわれた五柱の神々である。
造化の三神(ぞうかのさんじん)
古事記』上巻の冒頭では、 天地開闢の際、 高天原に以下の三柱の神(造化三神という)が成った。
いずれも「独神」として成って、 そのまま身を隠したという。

最初に天之御中主神が現れ、 次に高御産巣日神神産巣日神が共に出現した。
高御産巣日神を男神、 神産巣日神を女神とする説がある。
その次に、国土が形成されて海に浮かぶくらげのようになった時に以下の二柱の神が現われた。
この二柱の神もまた独神として身を隠した。 この五柱の神は性別はなく、 独身のまま子どもを生まず身を隠してしまい、 これ以降表だって神話には登場しないが、 根元的な影響力を持つ特別な神である。 そのため別天津神と呼ぶ。
神世七代(かみのよななよ)

次に、二柱の神が生まれた。 二柱とも性別はなく、これ以降、神話には登場しない。

引き続いて五組十柱の神々が生まれた。 五組の神々はそれぞれ男女の対の神々である。

男性神女性神
宇比地邇神(うひぢにのかみ)須比智邇神(すひぢにのかみ)
角杙神(つのぐひのかみ)活杙神(いくぐひのかみ)
意富斗能地神(おほとのじのかみ)大斗乃弁神(おほとのべのかみ)
於母陀流神(おもだるのかみ)阿夜訶志古泥神(あやかしこねのかみ)
伊邪那岐神(いざなぎのかみ)伊邪那美神(いざなみのかみ)
以上の七組十二柱を総称して神世七代という。

『日本書紀』の記述

日本書紀』における天地開闢は、 渾沌が陰陽に分離して天地と成ったと語られる。
続いてのシーンは、 性別のない神々の登場のシーン(巻一第一段)と男女の別れた神々の登場のシーン(巻一第二段・第三段)に分かれる。
また、 先にも述べたように、 古事記と内容が相当違う。さらに異説も存在する。

根源神たちの登場
本文によれば
太古、 天地は分かれておらず、 互いに混ざり合って混沌としていた。
しかし、 その混沌の中から、 清浄なものは上昇して天となり、 重く濁ったものは大地となった。そして、神が生まれる。

天地の中に葦の芽のようなものが生成され、神となる。

これらの神々には性別がなかった。

第一の一書によれば
天地に生成されたものの形は不明である。
しかし、 これが神となったことは変わらない。
生まれた神々は次の通り。
なお、 段落を下げて箇条書きされるのは上の神の別名である。
  • 国常立尊(くにのとこたちのみこと)
  • 国底立尊(くにのそこたちのみこと)
  • 国狭槌尊(くにのさつちのみこと)
    • 国狭立尊(くにのさたちのみこと)
  • 豊国主尊(とよくにむしのみこと)
    • 豊組野尊(とよくむののみこと)
    • 豊香節野尊(とよかぶののみこと)
    • 浮経野豊買尊(うかぶののとよかふのみこと)
    • 豊国野尊(とよくにののみこと)
    • 豊齧野尊(とよかぶののみこと)
    • 葉木国野尊(はこくにののみこと)
    • 見野尊(みののみこと)
第二の一書によれば
天地に葦の芽のようなものが生成された。 これが神となったとされる。 すなわち、 本書と同じであるが、 神々の名称が異なる。
  • 可美葦牙彦舅尊(うましあしかびひこぢのみこと)
  • 国常立尊(くにのとこたちのみこと)
  • 国狭槌尊(くにのさつちのみこと)
第三の一書でも
生まれた神々の名が異なる。なお、生まれた神は人のような姿だったと描写される。
  • 可美葦牙彦舅尊(うましあしかびひこぢのみこと)
  • 国底立尊(くにのそこたちのみこと)
第四の一書によれば
生まれた神々の名は下の通り。この異伝は『古事記』の記述に類似している。
  • 国常立尊(くにのとこたちのみこと)
  • 国狭槌尊(くにのさつちのみこと)
これらの二柱の神々の次に生まれたのが下の三柱の神々である。
  • 天御中主尊(あめのみなかぬしのみこと)
  • 高皇産霊尊(たかみむすひのみこと)
  • 神皇産霊尊(かみむすひのみこと)
第五の一書によれば
天地に葦の芽が泥の中から出てきたようなものが生成された。これが人の形をした神となったとされる。本書とほぼ同じ内容だが、一柱の神しか登場しない。
  • 国常立尊(くにのとこたちのみこと)
第六の一書
本書とほぼ同様に葦の芽のような物体から神が生まれた。ただし、国常立尊は漂う脂のような別の物体から生まれた。
  • 天常立尊(あまのとこたちのみこと)
  • 可美葦牙彦舅尊(うましあしかびひこぢのみこと)
  • 国常立尊(くにのとこたちのみこと)
男女一対神たちの登場
渾沌から天地がわかれ、 性別のない神々が生まれたあと、 男女の別のある神々が生まれる。
これらの神々の血縁関係は本書では記載がないが、 一書の中に異伝として記される。
本文によれば
四組八柱の神々が生まれた。
四組の神々はそれぞれ男女の対の神々であり、 下のリストでは、左側が男性神、右側が女性神である。
なお、 段落を下げて箇条書きされるのは上の神の別名である。
男性神女性神
埿土煮尊(うひぢにのみこと)
  埿土根尊(うひぢねのみこと)
沙土煮尊(すひぢにのみこと)
  沙土根尊(すひぢねのみこと)
大戸之道尊(おほとのぢのみこと)
  大戸摩彦尊(おほとまひこのみこと)
  大富道尊(おほとまぢのみこと)
  大戸之辺尊(おほとのべのみこと)
大苫辺尊(おほとまべのみこと)
  大戸摩姫尊(おほとまひめのみこと)
  大富辺尊(おほとまべのみこと)
  
面足尊 (おもだるのみこと)
  
  
  
  
惶根尊 (かしこねのみこと)
  吾屋惶根尊(あやかしこねのみこと)
  忌橿城尊(いむかしきのみこと)
  青橿城根尊(あをかしきねのみこと)
  吾屋橿城尊(あやかしきのみこと)
伊弉諾尊(いざなぎのみこと)伊弉冉尊(いざなみのみこと)
第一の一書では
伊弉諾尊、伊弉冉尊は青橿城根尊の子とされる。
第二の一書では
神々の系図がよりはっきりする。
  • 国常立尊
  • 天鏡尊(あまのかがみのみこと)
      国常立尊の子。
  • 天万尊(あめよろずのみこと)
      天鏡尊の子。
  • 沫蕩尊(あわなぎのみこと)
      天万尊の子。
  • 伊弉諾尊
      沫蕩尊の子。

天鏡尊、天万尊は宋史日本伝の引く年代記の他には見えず、また国常立尊・天鏡尊・天万尊・沫蕩尊・伊弉諾尊の並びは当年代記の一部に一致する。

本文によれば
国常立尊・国狭槌尊・豊斟渟尊に以上の四組八柱の神々を加えて「神世七代」という。
第一の一書によれば
四組八柱の神々の名が異なっている。
  • 埿土煮尊(うひぢにのみこと)、沙土煮尊(すひぢにのみこと)
  • 角樴尊(つのくひのみこと)、活樴尊(いくくひのみこと)
  • 面足尊(おもだるのみこと)、惶根尊(かしこねのみこと)
  • 伊弉諾尊(いざなぎのみこと)、伊弉冉尊(いざなみのみこと)

中国思想の影響

日本書紀』冒頭の

古 に天地未だ(れず、陰陽分れざりしとき……

は中国の古典の『淮南子』の

天地未だれず、陰陽未だれず、四時未だ分れず、萬物未だ生ぜず……

によっているとする説がある。


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