宮内庁治定の大吉備津彦命墓 (岡山県岡山市の中山茶臼山古墳) 墓は、宮内庁により岡山県岡山市北区吉備津にある大吉備津彦命墓(おおきびつひこのみことのはか、位置)に治定されている[3][4]。宮内庁上の形式は前方後円。遺跡名は「中山茶臼山古墳」で、吉備の中山の山上に位置する墳丘長108メートルの前方後円墳である[5]。 また、吉備の中山の麓の吉備津神社(岡山県岡山市、備中国一宮、位置)は、国史にも見える吉備津彦命の霊廟として知られる。同社の国史での初見は『続日本後紀』承和14年(847年)10月22日条で、「吉備津彦命神」に対して従四位下の神階が授けられたというが、のちに神階は位階(○位)から品位(○品)へと変わり、貞観元年(859年)1月27日に二品まで昇っている[6]。品位(一般には親王に対する位)を神階に使用する例は少なく、全国でも吉備津彦命のほか八幡神・八幡比咩神(大分県宇佐市の宇佐神宮)、伊佐奈岐命(兵庫県淡路市の伊弉諾神宮)の4神のみで、吉備津彦命と一般諸神との神格の違いが指摘される[7]。この吉備津神社社伝では、吉備津彦命は吉備の中山の麓に茅葺宮を建てて住み、281歳で亡くなり山頂に葬られたという。 以上の吉備津神社の存在から、吉備津彦命が古くは「吉備政権」構成諸部族から始祖に位置づけられたとする説もある[1]。また吉備の中山の北東麓では、同じく吉備津彦命を祀る吉備津彦神社(岡山県岡山市、備前国一宮)が知られる。
氏族 『日本書紀』では吉備津彦命の後裔氏族に関する記載はなく、弟の稚武彦命を吉備臣(吉備氏)祖とする[2]。一方『古事記』では、吉備津彦命を吉備上道臣の祖、稚武彦命を吉備下道臣・笠臣の祖とする[2]。 また『続日本紀』天平神護元年(765年)5月20日条では、播磨国賀古郡の馬養造人上が、「仁徳天皇の御宇に、吉備津彦の苗裔の上道臣息長借鎌が播磨国賀古郡印南野に住み、その6世孫の上道臣牟射志が聖徳太子に仕えて馬司に任ぜられたので、『庚午年籍』では馬養造とされたが、これは誤りであるから、印南野臣の姓を賜りたい」と言上し、「印南野臣」が賜姓されている[1]。 『新撰姓氏録』では、次の氏族が後裔として記載されている。 和泉国未定雑姓 椋椅部首 - 吉備津彦五十狭芹命の後。 国造 『先代旧事本紀』「国造本紀」では、次の国造が後裔として記載されている。 国前国造 - 志賀高穴穂朝(成務天皇)の御世に吉備臣同祖の吉備都命六世孫の午佐自命を国造に定める、という。のちの豊後国国埼郡国前郷周辺にあたる[8]。 葦分国造 - 纏向日代朝(景行天皇)の御世に吉備津彦命の子の三井根子命を国造に定める、という。のちの肥後国葦北郡葦北郷周辺にあたる[9]。
上述の吉備津神社(岡山県岡山市、備中国一宮)の縁起として、吉備津彦命が吉備平定にあたって温羅(うら・うんら・おんら)という鬼を討ったという伝承が岡山県を中心として広く知られる。これによると、温羅は鬼ノ城に住んで地域を荒らしたが、吉備津彦命は犬飼健命(いぬかいたけるのみこと)・楽々森彦命(ささもりひこのみこと)・留玉臣命(とめたまおみのみこと)という3人の家来とともに討ち、その祟りを鎮めるために温羅の首を吉備津神社の釜の下に封じたという。この伝説は物語「桃太郎」のモチーフになったともいわれる。吉備地域には伝説の関係地が多く伝わっているほか、伝説に関連する吉備津神社の鳴釜神事は上田秋成の『雨月物語』中の「吉備津の釜」においても記されている(詳細は「温羅」を参照)。 この伝承では、温羅は討伐される側の人物として記述される。しかし、吉備は「真金(まかね)吹く吉備」という言葉にも見えるように古くから鉄の産地として知られることから[10]、温羅は製鉄技術をもたらして吉備を繁栄させた渡来人であるとする見方や[11]、鉄文化を象徴する人物とする見方もある[12]。また、吉備津神社の本来の祭神を温羅と見る説もあり、その中でヤマト王権に吉備が服属する以前の同社には吉備の祖神、すなわち温羅が祀られていたとし、服属により祭神がヤマト王権系の吉備津彦命に入れ替わったという説もある[13]。 全国の吉備津彦命を祀る代表的な神社は次の通り。 吉備津神社(岡山県岡山市) - 備中国一宮。吉備津彦信仰の総本社。 吉備津彦神社(岡山県岡山市) - 備前国一宮。 吉備津神社(広島県福山市) - 備後国一宮。 田村神社(香川県高松市) - 讃岐国一宮。 吉備津神社 - 岡山県周辺に分布。 御崎神社(みさきじんじゃ/おんざきじんじゃ) - 岡山県周辺に分布。 艮御崎神社(うしとらみさきじんじゃ/うしとらおんざきじんじゃ) - 岡山県周辺に分布。 なお、吉備津彦の三人の家来については別説に「犬養縣主(犬)」「猿女君(猿)」「鳥飼臣(雉)」という豪族だという説もある。犬養縣主ゆかりの神社が岡山県笠岡市の「縣主神社」、猿女君ゆかりの神社は岡山市北区の「鼓神社」(二宮鼓神社)、鳥飼臣ゆかりの神社は岡山県都窪郡早島町の「鶴崎神社」がある。[要出典]