小窓
ギリシャ神話の人物

作成日:2024/3/19

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アプロディーテー

アプロディーテーまたはアプロディタは、 愛と美と性を司るギリシャ神話の女神で、 オリュンポス十二神の一柱である。 美において誇り高く、 パリスによる三美神の審判で、 最高の美神として選ばれている。 また、戦の女神としての側面も持つ。 日本語では、アプロディテアフロディテアフロディーテアフロダイティ(英: Aphrodite)などとも表記される。 ローマ神話ではウェヌスビーナス)にあたる。

元来は、 古代オリエントや小アジアの豊穣の植物神・植物を司る精霊・地母神であったと考えられる。 アプロディーテーは、生殖と豊穣、すなわち春の女神でもあった。

ホメーロスの『イーリアス』では「黄金のアプロディーテー」や「笑いを喜ぶアプロディーテー」など特有の形容語句を持っている。 プラトンの『饗宴』では純粋な愛情を象徴する天上の「アプロディーテー・ウーラニアー」と、 凡俗な肉欲を象徴する大衆の「アプロディーテー・パンデーモス」という二種類の神性が存在すると考えられている。

女神であるアプロディーテーは、 人間のアンキーセースの子を生んだ。 アイネイアスである。 ローマ建国神話では、 アイネイアスラウィニウムを建設したと伝承されており、 そのことからアイネイアスの母であるアプロディーテーは「ローマの祖」と呼ばれている。

概説

ヘーシオドスの『神統記』によれば、 クロノスによって切り落とされたウーラノスの男性器にまとわりついた泡(アプロス、aphros)から生まれ、 生まれて間もない彼女に魅せられた西風が彼女を運び、 キュテラ島に運んだ後、 キュプロス島に行き着いたという。 彼女が島に上陸すると愛と美が生まれ、 それを見つけた季節の女神ホーラーたちが彼女を飾って服を着せ、 オリュンポス山に連れて行った。 オリュンポスの神々は出自の分からない彼女に対し、 美しさを称賛して仲間に加え、 ゼウスが養女にした。 これは、Άφροδίτη が「泡の女神」とも解釈可能なことより生じた通俗語源説ともされるが、 アプロディーテーが男性器から生まれるという猥雑な誕生の仕方をしているのはヘーシオドスが極度の女嫌いであったためといわれる。 ホメーロスはゼウスとディオーネーの娘だと述べている。

美と優雅を司る三美神カリスたちは彼女の侍女として従っている。 また、アプロディーテーのつけた魔法の宝帯には「愛」と「憧れ」、 「欲望」とが秘められており、 自らの魅力を増し、 神や人の心を征服することが出来る。

気が強く、 ヘーラーやアテーナーと器量比べをしてトロイア戦争の発端となったり、 アドーニスの養育権をペルセポネーと奪い合ったりすることもある。

キュプロスとアプロディーテーのあいだには本質的な連関があり、 女神が最初にキュプロスに上陸したというのは、 アプロディーテーの起源とも密接に関係する。

結婚相手・愛人を含め関係があったものは多々いるが主なものは、 ヘーパイストス、アレース、アドーニスである。

聖獣はイルカで、 聖鳥は白鳥、鳩、雀、燕。 聖樹は薔薇、芥子、花梨、銀梅花。真珠、帆立貝、林檎もその象徴とされる。 また、牡山羊や鵞鳥に乗った姿でも描かれる。

物語

アドーニス
アドーニス(Adonis)は、 アッシリア王テイアースの娘(別の説もあり)スミュルナの生んだ子であるとされる。 スミュルナは、 アプロディーテーへの祭祀を怠ったため父親に対して愛情を抱く呪をかけられ、 策を弄してその想いを遂げた。 しかし、これが露見したため父に追われ、 殺される所を神に祈って没薬の木(スミュルナ)に変じた。 その幹の中で育ち、 生まれ落ちたのがアドーニスといわれる。 また、アドーニスの出生についてはまったく別の説話も多い。 例えば、アポロドーロスの述べるところでは、 エーオースの子孫で、 キュプロスにパポス市を建設したキニュラースの息子がアドーニスである。
アプロディーテーはこのアドーニスの美しさに惹かれ、 彼を自らの庇護下においた。 だがアドーニスは狩猟の最中に野猪の牙にかかって死んだ。 女神は嘆き悲しみ、 自らの血をアドーニスの倒れた大地に注いだ(アドーニス本人の血とする説も)。 その地から芽生えたのがアネモネといわれる。 アプロディーテーはアドーニスの死後、 彼を祀ることを誓ったが、 このアドーニス祭は、 アテーナイ、 キュプロス、 そして特にシリアで執り行われた。 この説話は、 地母神と死んで蘇る穀物霊としての少年というオリエント起源の宗教の特色を色濃く残したものである。
アイネイアス
ゼウスはたびたびアプロディーテーによって人間の女を愛したので、 この女神にも人間へ愛情を抱くよう画策し、 アンキーセースをその相手に選んだ。 女神はアンキーセースを見るとたちまち恋に落ち、 彼と臥所を共にした。 こうして生まれたのがアイネイアスであり、 彼はトロイア戦争の後ローマに逃れ、 その子イーロス(ラテン語名:ユールス)が、 ユリウス家の祖とされたため、 非常によく崇拝された。

信仰

東方起源の性格
古くは東方の豊穣・多産の女神アスタルテー、 イシュタルなどと起源を同じくする外来の女神で、 『神統記』に記されているとおり、 キュプロスを聖地とする。 オリエント的な地母神且つ金星神としての性格は、 繁殖と豊穣を司る神として、 庭園や公園に祀られる点にその名残を留めている。 そして愛の女神としての性格を強め、 自ら恋愛をする傍ら神々や人々の情欲を掻き立てて、 恋愛をさせることに精を出している。 同じく愛の神エロースと共にいる事もしばしばである。 また、これとは別に航海の安全を司る神として崇拝されたが、 これはフェニキアとの関連を示唆するものと考えられる。
スパルタやコリントスでは、アテーナーのように、 甲冑を着けた軍神として祀られていた。 特にコリントスはギリシャ本土の信仰中心地とされ、 コリントスのアクロポリス(アクロコリントス)のアプロディーテー神殿には、 女神の庇護下の神殿娼婦が存在した。 この所作もまた東洋起原のものとされる。
古くから崇拝されていた神ではないために伝えられる説話は様々である。 ヘーパイストスの妻とされるが、 アレースと情を交わしてエロースなどを生んだという伝承もある。 アプロディーテーとエロースを結び付ける試みは、 紀元前5世紀の古典期以降に盛んとなった。
金星の女神
本来、豊穣多産の植物神としてイシュタルやアスタルテー同様に金星の女神であったが、 このことはホメーロスやヘーシオドスでは明言されていない。 しかし古典期以降、再び金星と結び付けられ、 ギリシャでは金星を「アプロディーテーの星」と呼ぶようになった。 現代のヨーロッパ諸言語で、 ラテン語の「ウェヌス」に相当する語で金星を呼ぶのはこれに由来する。
グレゴリオ聖歌でも歌われる中世の聖歌『アヴェ・マリス・ステラ』の「マリス・ステラ(Maris stella)」は、 「海の星」の意味であるが、 この星は金星であるとする説がある。 聖母マリアがオリエントの豊穣の女神、 すなわちイシュタルやアスタルテーの系譜にあり、 ギリシャのアプロディーテーや、 ローマ神話のウェヌスの後継であることを示しているとされる。
ローマ神話での対応と別名
ローマ神話ではウェヌス(Venus)をアプロディーテーに対応させる。 この名の英語形は「ヴィーナス」で、 金星を意味すると共に「愛と美の女神」である。
別名として、 レスボス島の詩人サッポーはアプロディタと呼んでいる。 また、キュプリス(「キュプロスの女神」の意)という別名もある。 キュプロス島には古くからギリシャ人植民地があったが、 キュプロスを経由して女神の信仰がオリエントより招来されたためとも考えられる。 アプロディーテーとキュプロスには本質的な関係があった。
その海からの生誕と関係して「キュテレイア(キュテーラの女神)」と呼ばれるほか、 キュプロスの都市パポスにちなみ「パピアー(パポスの女神)」とも称される。 ヘーラーは、毎年1回沐浴して、 元の純潔な処女に戻ったが、 アプロディーテーもパポスで同じ沐浴を行っている。

アンキーセース

アンキーセースは、 ギリシャ神話の人物である。 ラテン語ではアンキーセス。 長母音を省略してアンキセスとも表記される。

トロイア王イーロスの娘テミステーとアッサラコスの子カピュスの子。 一説にアッサラコスの子、 またカピュスの子でラーオコオーンと兄弟とも言われる。 愛と美の女神アプロディーテーに愛されたことで知られ、 アイネイアス、 リュロスをもうけた。 またヒッポダメイアという娘もいた。

神話

アプロディーテーとの恋

神話によれば、 ゼウスはアプロディーテーが神々を人間と結びつけていたので、 アプロディーテーがいい気になって自慢したりしないように、 アプロディーテーにアンキーセースへの恋を吹き込んだという。

アプロディーテーは、 イーデー山で暮らすアンキーセースを見て恋の虜になった。 そこでアプロディーテーはキュプロスに帰って身なりを整え、 再びアンキーセースを訪ねた。 アンキーセースはアプロディーテーを見て、 あまりの美しさに女神ではないかと疑った。 しかしアプロディーテーは神の姿を隠し、 プリュギア王オトレウスの娘であると偽り、 ヘルメース神がアンキーセースの妻とするために自分をさらって連れて来たと言った。 アンキーセースは愛欲に逆らえず、 アプロディーテーと一夜をともにした。

翌朝、アプロディーテーは神の姿に戻り、 アンキーセースを起したが、 目覚めたアンキーセースはその姿を見てすっかりおびえてしまった。 彼は女神と交わった男は精を失うと信じていたので、 精を失った身体で生き続けることがないよう懇願した。 アプロディーテーはアンキーセースをなだめ、 彼の子を身ごもったこと、 その子を5年間ニュムペーに育てさせた後に連れてくること、 そしてアプロディーテーに子供を生ませたことをみだりに話すと怒ったゼウスが雷を投げつけるだろうことを伝えて去っていった。

トロイアの脱出

しかしアンキーセースは酒に酔ってアプロディーテーに愛されたことを話してしまったので、 ゼウスの雷に撃たれ、 仕事のできない身体になってしまった。 また一説にハチに目を刺されて失明したという。

後にトロイア戦争でイーリオス城が陥落したさい、 アンキーセースはアイネイアスに従わず、 脱出せずに城内に残ろうとした。 しかし雷鳴とともに天に流星が現れ、 逃げるべき方向を示したとき、 ついに諦めて、 アイネイアスに背負われて脱出した。 その後トロイアを出航してイタリアを目指し、 シチリア島で死んだという。

ヘレン

ヘレン(Hellen)

ヘレンは、ギリシャ神話の人物である。 デウカリオーンとピュラーの息子で、古代ギリシャ人の名祖(なおや)とされる。 古代ギリシャ人は自分たちをヘレンの一族(ヘレーネス)と自称した。

プロメーテウスの子デウカリオーンは、エピメーテウスとパンドーラーの娘であるピュラーを妻とし、そのあいだに最初に生まれたのがヘレンである。 しかし別の説では、ヘレンゼウスの息子であるともされる。 また更に別の説では、彼はプロメーテウスの息子ともされ、デウカリオーンの兄弟とされる 。 それは「青銅の時代」を終焉させた大洪水の後のことで、人間の種族が地上で再び栄え、「英雄時代」が始まった頃である。

ヘレンは、ペーネイオス河とアイソーポス河のあいだにあるテッサリアー地方のプティーアーの王と見なされていた。 彼の王位は息子アイオロスによって継承された。

ヘレンは山のニュンペーであるオルセーイスを妻とし、そのあいだにドーロス、クスートス、アイオロスの兄弟が生まれた。 ヘレーンは息子たちにギリシャの土地を分けて与え、彼らはそれぞれの土地を支配した。 クスートスはペロポネーソスの地を得、ドーロスはコリントス湾をはさんだペロポネーソス半島の対岸の地域を得た。 一方、アイオロスはテッサリアー地方とその周辺の土地を得た。 ドーロスはドーリア人の祖とされ、またアイオロスはアイオリス人の祖とされる。 他方、クスートスはエレクテウスの娘クレウーサより二人の息子アカイオスとイオーンを得、二人はそれぞれアカイア人とイオーニア人の祖とされた。 ヘレンの子孫たちは古代ギリシャの諸部族の名祖とされ、 ヘレン自身はギリシャ人の祖とされたが、 実際は事態は逆で、 古代ギリシャ人の名祖としてヘレンという人物が創作されたとも言うべきである。