小窓
類人猿(ape)

作成日:2021/6/2

概要

類人猿(ape)は、 ヒトに似た形態を持つ大型と中型の霊長類を指す通称名である。

ヒトの類縁であり、 高度な知能を有し、 社会的な生活を営んでいる。
類人猿は生物学的な分類名称ではないが、 生物の分類上都合が良いので霊長類学などで使われている。
一般的には、 人類以外のヒト上科に属する種を指すが、 分岐分類学を受け入れている生物学者が類人猿(エイプ)と言った場合、 ヒトを含める場合がある。
ヒトを含める場合、 類人猿はヒト上科(Hominoidea・ホミノイド)に相当する。

テナガザルを含めた現生類人猿では尾は失われている。

類人猿には現生の次の動物が含まれる。

大型類人猿のうち、 ゴリラ、チンパンジー、ボノボ(とヒト)はアフリカ類人猿と呼ばれる。
オランウータンはアジア類人猿と呼ばれる。
アジア類人猿で現生するのはオランウータンだけであるが、 絶滅種のギガントピテクスなども含まれる。
以前の分類では、 オランウータン科にはオランウータン属・ゴリラ属・チンパンジー属を含めた。
しかし、 DNAの進化分析を考慮した新しい分類では、 オランウータン科はオランウータンのみとなり、 ゴリラ属・チンパンジー属はヒト科に分類される。
さらに、 オランウータンもヒト科に含めると考え、 ヒト上科はテナガザル科とヒト科に、 ヒト科はオランウータン亜科とヒト亜科に、 ヒト亜科はゴリラ族とヒト族に、 ヒト族はチンパンジー亜族とヒト亜族に分類するのが一般的となり、 この学説が正しければオランウータン科は消滅することになる。

大型類人猿のオランウータン、ゴリラ、チンパンジー、ボノボは野生で絶滅の危機に瀕している。
理由としては、 性成熟が遅いこと、 森林伐採などによる生息地の減少や分断、 密猟が大型類人猿の減少の原因である。

類人猿の出現

最古の類人猿とおぼしき化石は東アフリカ(現在のケニヤ北部にあるロシドク)の漸新世(2500万年前)の地層から見つかっている。
その後、中新世に入ると、 プロコンスルやアフロピテクス、ナチョラピテクス、ケニヤピテクスなど、 類人猿がたくさん現れる。
といっても、 アフリカ(アラビア半島を含む)における類人猿化石の発見は、 いまはまだ、 その大部分がケニヤを中心とした東アフリカに集中しており、 アフリカの他の地域からはほとんど見つかっていない。
ただ少数とはいっても、 サウジアラビアや南アフリカから見つかった化石から、 類人猿は中新世前期の1800万年前頃までにはアラビア半島からアフリカ南端まで広く分布していたことがわかる。
アフリカ大陸は何千万年ものあいだ比較的孤立した陸塊だったが、 この頃になるとユーラシア大陸とのあいだに陸橋が形成され、 陸生動物の移動が容易になった。
類人猿の仲間もアフリカからユーラシアに進出した。
ユーラシア最古の類人猿化石はヨーロッパから見つかっており、 だいたい1700万~1600万年前の大臼歯のかけらである。
中新世中期から後期(1300万~700万年前)には類人猿はヨーロッパ南アジア、 中国などユーラシア各地に棲息域を広げていた。
ヨーロッパのドリオピテクス、 インド・パキスタンのシヴァピテクス、 中国のルーフォンピテクスなどが代表的なものである。
逆に、 アフリカではこの時代やそれ以降の類人猿の化石はほとんど見つかっていない。
ユーラシアでも、 中新世後期もなかばを過ぎると、 類人猿の化石は非常に少なくなる。
ヨーロッパでは1000万年前をやや過ぎたあたりで、 類人猿相が衰退した。
インド亜大陸の北部でも、 700万年前頃を境に類人猿が化石記録から消えていった。
これらは、 ヒマラヤ・チベット高原の隆起活動などによって世界的な気候の変動が起き、 類人猿の棲息に適した環境が縮小したためだと考えられる。
これ以降、 鮮新世に至ってはいまのところ類人猿化石は皆無に等しい。
更新世になると、 中国南部や東南アジアでオランウータンやテナガザルの化石が若干出土しているが、 アフリカのゴリラやチンパンジーに直接つながるはっきりした化石は何も見つかっていない。
かわって各地でオナガザル科の霊長類(旧世界ザル)が台頭し、 現在のようにアフリカとアジアで多様化を遂げた。
グループ全体としては凋落傾向にあったヒト上科であるが、 数万年前、 ヒト上科のなかで著しく特殊化した系統の末裔がアフリカを後にして全世界に拡散をはじめた。
Homosapiens?つまりわれわれ現代人の直接の祖先である。
彼らは、ユーラシア大陸はもとより、 オーストラリアや南北アメリカ大陸にも分布を広げ、 人口を増やしていった。
現在の世界人口は60億人を超える。
現存するヒト以外の全霊長類の個体数を合わせても、 この何百分の一にしか達しないだろう。
ある意味、 ヒト上科は空前の大繁栄を享受していると言えるかもしれない(もっとも、このまま行けば、Homo sapiensが地球上に生存する唯一のヒト上科動物になる日も遠くはないのかもしれないけれど)。