航空機事故詳細
作成日:2025/6/27
事故発生日:
西暦2015年月日
便名:個人所有機(機体記号:JA4060)
機種:パイパー PA-46-350P マリブ・ミラージュ
死者:乗員1人乗客4人、合計5人の内2人と地上の1人が死亡
状況:
調布市PA-46墜落事故は、
小型航空機パイパー PA-46が調布飛行場を離陸した直後に、
東京都調布市富士見町の住宅地に墜落した日本の航空事故。
消防庁では「
東京都調布飛行場近隣住宅地における小型航空機の墜落火災」、
国土交通省運輸安全委員会では「
東京都調布市における小型機墜落航空事故」と呼称している。
事故を検証していた国土交通省の運輸安全委員会は、
2年後の
西暦2017年7月18日に事故原因を発表した。
...
概要
西暦2015年7月26日午前10時58分(現地時間)に調布飛行場を離陸し、
慣熟飛行を行うため伊豆大島に向かっていたパイパー PA-46 登録記号JA4060(定員6人、うち操縦士席2席、今フライトでの搭乗者数は5人、うち操縦士は1人)が、
数十秒後に調布市富士見町1丁目の住宅地に墜落した。
墜落した機体との接触により、
住宅9棟が破損および焼損し、
出火した住宅内にいた女性1人と事故機のパイロットおよび乗客男性の計3人が焼死、
接触した住宅内にいた女性2人と乗客3人が負傷した。
乗客のうち死者は、対面式の前側の客席に座っていた。
同日中に、
国土交通省の運輸安全委員会は事故原因究明のため、
航空事故調査官を現地に派遣した。
事故発生当初の原因分析
マスコミの取材に対し、
元全日本空輸機長で航空評論家の樋口文男は「動画共有サイトに投稿された映像や、レシプロ小型機の低速度から考えて、離陸から墜落まで20 - 30秒しかなかったようだ。離陸直後に機関に重大なトラブルが起き、住宅街を避ける余裕がないまま墜落したのでは」と指摘している。
また「エンジン音が普段より低かった、通常より高度も低かった」という目撃情報については「通常なら離陸時はエンジン出力を最大にするため、エンジン音も高くなる。普段より低かったとすれば、エンジン出力が十分に上がっていなかった可能性がある」と述べている。
墜落現場の状況については「壊れた機体が散乱している住宅の、2軒隣の住宅の屋根が大きく壊れているのが分かる。この屋根に主翼が接触し機体がひっくり返った勢いで2軒先の住宅に衝突し、燃料タンクから燃料が漏れ火災が起きたのでは」と指摘している。
同じく航空評論家の秀島一生は、
事故の目撃者が撮影した映像を分析し「離陸後、エンジン出力が増すべきところで音が大きくならずに消えているように聞こえる。上昇中に何らかの原因でエンジンが止まった可能性が高い」と指摘している。
また、事故機が仰向けになった状態で見つかったことに対し「住宅を避ける間もなく突っ込んだとみられる」としたうえで「たとえエンジンが止まったとしても、操縦ができた状態であればもう少し飛べたはず」とエンジン以外にもトラブルが起きた可能性があることを指摘している。
航空安全コンサルタントの佐久間秀武は「離陸しているということは、それまでエンジンに異常がなかったということ。操縦系統が整備不良だったのではないか」と指摘した。
以上のようなエンジンや操縦系統、
整備ミスという機材原因説のなか、
西暦2015年7月27日(事故の翌日)に2年後の国土交通省の報告書と同じ内容の分析が公開されていた。
国土交通省による報告書
西暦2017年7月18日、事故を検証していた国土交通省運輸安全委員会委員長の中橋和博は「事故原因については、離陸後間もなく速度が低下し、失速して墜落したものと推定している」と発表。
検証の結果、
墜落した小型機は必要以上の燃料を積むなどして、
離陸可能な重さを58キロ超過し、
離陸に必要とされる速度を下回る速度で離陸し、
さらに機長が高度を上げようと機首を上げ続けたことで空気抵抗が大きくなり、
失速したと結論付けた。
また、
残骸の調査からはエンジンの故障を示す証拠は発見されなかったものの、
数学モデルを用いた解析からはエンジンの出力が低下していた可能性があることが示された。
運輸安全委員会はこれらの要因が重なり、
事故に結び付いた恐れがあるとした報告書を国土交通大臣に提出した。
国土交通省の担当者は、
積載燃料が多かった理由について「往復分に加え、余裕をみた量を積んでいた可能性がある」としている。
事故機の理論上の最大離陸重量は約1,950kgに対し、
事故当日は機体重量約1,200kgに、
積載燃料約280kg(予定していた伊豆大島までの片道分の5倍にあたる)、
成人男性5人と荷物を積載しており、
離陸可能な限界重量に近かったと指摘されている。
刑事訴訟
事故機の機長は、
自身が社長を務めるシップ・アビエーションのウェブサイトで、
無許可で操縦士訓練の宣伝を行っていた。
機長の飛行時間は自己申告では約1500時間であり、
訓練の指導に必要な「操縦教育証明」の免許は取得していたが、
事業に必要な国土交通省の許可を受けていなかった。
機長はウェブページで「関連役所等の理解が得られず許可を受けるに至っていない」とし、
訓練はパイロットを養成する航空機使用事業ではなく「クラブ運営方式」だと主張していた。
事故機の飛行目的は、
操縦技術の維持向上を目的とした慣熟飛行として届け出されていたものの、
実態は遊覧飛行であった可能性が指摘されている。
調布飛行場では遊覧飛行目的の利用は禁止されているが、
慣熟飛行の際に同乗者に関して明確な規定は存在せず、
慣熟飛行と遊覧飛行の線引きは曖昧となっている。
警視庁は、
慣熟飛行ではなく乗客から費用を集めたチャーター飛行だったと判断し、
西暦2017年3月29日、
機体を管理していた日本エアロテックの社長と事故で死亡した機長ら3人と法人としての同社を航空法違反容疑などで書類送検した。
同年12月28日、東京地検立川支部は法人としての日本エアロテックと社長を航空法違反罪で在宅起訴した。
西暦2018年4月23日、
東京地方裁判所立川支部で初公判が開かれ、
被告の同社社長は航空法違反容疑の起訴内容を認めた。
起訴状によれば、
社長は死亡した機長と共謀して
西暦2013年1月から事故当日までの計4回にわたり、
無許可で1回10万円から128万円の料金を取り、
計15人の乗客を乗せて飛行した。
死亡した機長と日本エアロテックの営業担当だった男性は不起訴となった。
同年5月18日、
東京地裁立川支部は起訴事実を認定し、
社長に懲役1年・執行猶予3年(求刑懲役1年)、
同社に罰金150万円(求刑通り)の有罪判決を下し、
被告側は控訴せず同年6月1日に判決が確定した。
さらに同年11月21日、
出発前の機体の重量確認を怠ったとして、
警視庁は業務上過失致死傷容疑で日本エアロテックの社長と機長を書類送検した。
しかしその後、
西暦2021年10月28日、
東京地検立川支部は業務上過失致死傷では嫌疑不十分で不起訴とした。
航空専門家の意見を聞くなどして起訴の可否を調査したものの墜落原因の特定には至らず「過失による事故とは言い切れない」と判断した。
民事訴訟
- 西暦2017年10月13日
-
墜落事故による火災で死亡した女性の遺族が、
飛行許可を出した東京都および運行会社のシップ・アビエーション、
管理会社の日本エアロテックの2社を相手取り、
慰謝料など計約1億1000万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。
原告側は「東京都が注意義務を怠り、違法な遊覧飛行を許可した責任がある」と主張。
事故後に原告である母親はうつ病およびPTSDを発症、
謝罪や補償も受けておらず、
焼失した自宅も再建できていないという。
- 西暦2020年7月16日
-
東京地裁は会社側に約7500万円の支払いを命じ、
東京都への請求は棄却した。
裁判長の加本牧子は、
事故調査報告書を踏まえ「墜落事故の原因は重量オーバーを確認せずに低速離陸や過度な機首上げを行った機長にあり、彼が代表取締役を務めていたシップ・アビエーションには責任がある」「エアロ社には、運航管理担当者を置かず、安全のために必要な情報を機長に提供しなかった責任がある」と判断した。
一方で「東京都は当該飛行が遊覧飛行に該当すると認識した事実は認める証拠は足らず、両社が遊覧飛行を行って処分を受けたとする証拠もない」として、
東京都への請求は退けた。
シップ・アビエーション社はこの判決を受入れ、
賠償額も確定したが、
日本エアロテック社は自らの責任を否定し、
東京高裁に控訴した。
- 西暦2021年10月13日
-
東京高裁は、
日本エアロテック社の責任を認めた1審・東京地裁判決を取り消し、
請求を棄却した。
判決で裁判長の八木一洋は「機長に対する実質的な指揮監督の関係はなかった」と述べた。
- 西暦2022年10月13日付
-
最高裁は遺族側の上告を受理しない決定をした。
遺族側の請求を棄却した2審東京高裁判決が確定し、
遺族への賠償はシップアビエーション社のみが負うこととなった。