事故発生日:
西暦1974年3月3日
便名:トルコ航空 981便(機体記号 TC-JAV)
機種:マクドネル・ダグラス DC-10-10
死者:乗員12人乗客334人。合計346人全員が死亡。
状況:トルコ航空DC-10パリ墜落事故は、
西暦1974年3月3日に
フランスで発生した、
トルコ航空(現:ターキッシュ エアラインズ)981便のマクドネル・ダグラス DC-10-10が墜落した航空事故である(別名:トルコ航空981便墜落事故)。
事故の発端は閉鎖が不完全だった貨物室のドアが、
機体の上昇に伴う機内与圧と機外の気圧の圧力差の拡大に耐え切れずに脱落したことである。
これに伴い貨物室内で急減圧が発生し、
客室との気圧差で後部客席の床が破壊され、
床下を通るコントロールライン(油圧パイプ/ケーブル)が切断され、
その結果機体の方向舵、昇降舵、尾部エンジンの制御ができなくなり、
操縦不能に陥り墜落したものであった。
...
事故機のTC-JAV号機は、
西暦1972年にダグラス社が日本の全日空向けに製造したものの、
それまで同型機にエンジンや貨物室ドアの脱落が相次いでいたり全日空が重要視していた騒音対策に非協力的だったことから社内でダグラス社に対する不信感が漂っていたことや、
いわゆるロッキード事件の影響により同社がロッキード L-1011 トライスターを採用した結果キャンセルされた機体であり、
在庫となった機体の処置に困ったダグラス社が、
トルコ航空に破格の条件で販売したものであった。
この事故は、
300人以上が搭乗した大型旅客機としては初の大事故となった。
また、
西暦1977年3月27日に
テネリフェ空港ジャンボ機衝突事故が起こるまでは世界最大の航空事故であり、
西暦1985年8月12日に
日本航空123便墜落事故が発生するまで、
単独機航空事故として世界最大の死亡事故だった。
西暦2025年2月現在でも、
西暦1996年11月12日に発生した
ニューデリー空中衝突事故に次ぐ4番目に大きな航空事故である。
事故現場には現在慰霊碑が建てられている。
事故機は離陸10分後、
パリから北へ15km離れたサン=パトゥス村 (Saint-Pathus) 上空、
高度
11500フィートまで上昇したときに、
ロックが不完全だった左側後部貨物室ドアが客室の与圧により吹き飛ばされて急減圧が起こった。
この時にパイロットが持っていたマニュアルが壁にたたきつけられる音がコックピットボイスレコーダーに収録されている。
貨物室の減圧に伴い客室の床が破壊され、
乗客6名が座席ごと空中に放り出された。
また、床下を通るコントロールラインが切断されて、
方向舵、昇降舵、尾部エンジンの制御が不可能になり、
操縦不能のままドアの脱落から1分17秒後に
430ノットの速さで墜落に至った。
この事故の2年近く前の
西暦1972年6月12日には、
アメリカン航空のDC-10-10の後部貨物ドアが飛行中に脱落し、
客室床の一部が陥没しコントロールラインが損傷を受ける事故(
アメリカン航空96便貨物ドア破損事故)が発生している。
この事故では乗客が少なく、
幸いわずかに操縦が可能であったため犠牲者を出す事無く緊急着陸に成功した。
この事故を調査した
NTSBの勧告を受けて、
FAAはDC-10の後部貨物ドアのロック機構に関するAD(耐空性改善通知)を出そうとしたが、
このころ、
大統領選にあたってニクソン大統領がダグラス社からの資金提供を期待していたといわれ、
政治的意図により
FAA上層部によって握りつぶされていた。
実は製造メーカーのダグラス社は1号機生産中の与圧試験の段階からこの欠陥を認識していながら、
設計変更等を行うことなく、
簡単な改修を加えただけで販売を継続していた。
マクドネル・ダグラス社は、
アメリカン航空の急減圧事故発生後、
全DC-10の後部カーゴドアに改修を加えたとしているが、
事故機のように製造記録書類のうえで改修済みとなっているにもかかわらず、
実際には改修されていないものまであったことがわかった。
このことから、
ダグラス社が自社の製品の欠陥を認識しておきながら安全よりも営業実績を優先したとして、
厳しい批判を浴びることになり、
アメリカの連邦議会でも追及されることになった。
事故の直接原因は、
貨物室ドア動作用のモーターのトルク不足によりドアが閉まり切らない可能性があったという欠陥、
貨物ドアが閉まりきっていないにもかかわらず操縦室の確認灯が消灯してしまう欠陥、
ロック機構の強度が不十分なためロックできてなくてもドアを閉じることが出来てしまう欠陥という、
アメリカン航空96便と同様の欠陥を改修しなかったこと、
および、
正しい手順で貨物ドアをロックしなかった地上スタッフに起因するとされた。
地上スタッフはトルコ語、ドイツ語、フランス語を読解することが出来たが、
ドアの注意書きが書かれていた英語を読解することが出来なかった。
この事故を契機に、
DC-10のコントロールケーブルの配置は、
仮に客室床の陥没が発生しても切断されないよう、
胴体サイドに変更された。
また、急減圧の際にも客室床が破壊されることがないように、
DC-10をはじめとする大型機の客室床の強度を増し、
貨物室と客室の間に気圧差が生じないように空気抜きの穴が設置されるようになった。