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古事記上巻5

作成日:2019/9/1


須佐之男命と天照大御神の誓約(1/)
【原文】
故於是 速須佐之男命言「然者 請天照大御神 將罷」乃參上天時 山川悉動 國土皆震 爾天照大御神 聞驚而詔「我那勢命之上來由者 必不善心 欲奪我國耳」卽解御髮 纒御美豆羅而 乃於左右御美豆羅 亦於御𦆅 亦於左右御手 各纒持八尺勾璁之五百津之美須麻流之珠而 [自美至流四字以音下效此] 曾毘良邇者 負千入之靫 [訓入云能理下效此 自曾至邇以音] 比良邇者 附五百入之靫
【読み下し文】

故於是 速須佐之男命言「然者 請天照大御神 將罷」乃參上天時 山川悉動 國土皆震
於是命言はく「然者 天照大御神に、[将に]らむとふ」、乃ち参上らむとす時に、山川悉 みて、ひき。

爾天照大御神 聞驚而詔「我那勢命之上來由者 必不善心 欲奪我國耳」卽解御髮 纒御美豆羅而
爾 天照大御神聞きて驚きて[而]詔う。「我が命 り来る、必ず不善心にてが国を奪はむと欲 」。即ちを解き、ひたまひき[而]。

乃於左右御美豆羅 亦於御𦆅 亦於左右御手 各纒持八尺勾璁之五百津之美須麻流之珠而 [自美至流四字以音下效此] 曾毘良邇者 負千入之靫 [訓入云能理下效此 自曾至邇以音] 比良邇者 附五百入之靫
乃ち、左右の𦆅 左右の各、 勾璁ひ持ちて[而] [「美」り「流」で四字以る。下つかた此にふ]、者、ひて [「入」をと云ふ。下つかた此れにふ。「曽」り「邇」を以る]、けたまひき。

【現代語訳】
これにより、命 が言いますには「それなら、天照大御神に今すぐ戻りたいと申し上げる」。天に参上する時に山、川はことごとく動き、国土はみな震えました。
天照大御神これを聞き、驚きおっしゃいますには「わが弟が上って来る理由に、絶対に善い心はなく、ただ私の国を奪いたいのみ。」と仰せられ、 直ちに、御髮を解き、鬟 をまといました。
そして左右の御鬟に、また御鬘に、また左右の御手に、 それぞれ、「勾玉御統」をまとい持ち、 背後には千本入りのを背負い、さらに五百本入りの靫を付けました。
【解説】

須佐之男命と天照大御神の誓約(2/)
【原文】
亦所取佩伊都 [此二字以音] 之竹鞆而弓腹振立而 堅庭者於向股蹈那豆美 [三字以音] 如沫雪蹶散而伊都 [二字以音] 之男建 [訓建云多祁夫] 蹈建而待問「何故上來」爾速須佐之男命答白「僕者無邪心 唯大御神之命以問賜僕之哭伊佐知流之事」故白 「都良久 [三字以音] 僕欲往妣國以哭」 爾大御神詔 汝者不可在此國而 神夜良比夜良比賜 故以爲「請將罷往之狀參上耳無異心」 爾天照大御神詔「然者 汝心之淸明 何以知」於是速須佐之男命答白「各宇氣比而生子」[自宇以下三字以音下效此
【読み下し文】

亦所取佩伊都 [此二字以音] 之竹鞆而弓腹振立而 堅庭者於向股蹈那豆美 [三字以音] 如沫雪蹶散而伊都 [二字以音] 之男建 [訓建云多祁夫]
[此の二字音を以る] を[所]取りかしたまひて[而]、振り立てて[而]、
堅庭向股踏み [三字、音を以る] 如 蹶散  [而] [二字音を以る] 建  [「建」を訓みてと云ふ]。

蹈建而待問「何故上來」 爾速須佐之男命答白「僕者無邪心 唯大御神之命以問賜僕之哭伊佐知流之事」故白
びて[而]ち問う「何故るか」と問ひたまひき。
爾 命答へてさく「僕 邪 なる心し。命 ひしを以ちて、僕 し[之]」のさく。

「都良久 [三字以音] 僕欲往妣國以哭」 爾大御神詔 「汝者不可在此國」而 神夜良比夜良比賜 故以爲「請將罷往之狀參上耳無異心」
[三字音を以ちてす]、僕 の国にかむとりてちてく」とまをしき。
爾 詔はく「汝 此の国に在ら不。」とのたまひて[而]、ひき。
へらく「かむとする[之]状 げむとおもへりて、参上りしなる心無し。」

爾天照大御神詔「然者 汝心之淸明 何以知」 於是速須佐之男命答白「各宇氣比而生子」[自宇以下三字以音下效此
爾 天照大御神詔 く「然者 汝 が心清くきなるは何を以ちて知るや」とのたまひて、 於是の命、答へてさく「各 に[而]子をさむ。」とまをしき [「宇」以下 三字、を以る。下つかた此にふ]。

【現代語訳】
また矢を取り、を装着し、弓を振り立て、 堅い庭を足で踏んだところ太腿まで足を取られるも、沫雪のように蹴散らし、御稜威の雄叫びを上げられました。
速須佐之男命が答えて申し上げるに「私めに、よこしまな心はありません。ただ伊邪那岐大御神が私へのを問いただされたので、私めが泣きじゃくり、「辛く、私めは亡き母の国に行きたいので泣いたのです。」と申し上げました。
大御神は『お前はこの国に、決していてはならない』と仰られ、かくて神払いなされました。 この様に、今すぐにでも戻りたい気持ちを申し上げるために、参上しようと思うのみです。異心はございません。」
天照大御神は「それなら、お前の心の清明であることを、どうやったら知ることができるのか。」と仰られました。
これに速須佐之男の命は「それぞれを受け、子を生みましょう。」とお答え申し上げました。
【解説】

須佐之男命と天照大御神の誓約(3/)
【原文】
故爾各中置天安河而 宇氣布時 天照大御神 先乞度建速須佐之男命所佩十拳劒 打折三段而 奴那登母母由良邇 [此八字以音 下效此] 振滌 天之眞名井而 佐賀美邇迦美而 [自佐下六字以音下效此] 於吹棄氣吹之狹霧所成神 御名 多紀理毘賣命 [此神名以音] 亦御名 謂奧津嶋比賣命 次市寸嶋[上]比賣命 亦御名 謂狹依毘賣命 次多岐都比賣命 [三柱此神名以音]
【読み下し文】

故爾各中置天安河而 宇氣布時爾 各   天 安 を中に置きて[而]、時、

天照大御神 先乞度建速須佐之男命所佩十拳劒天照大御神ず、建速命[所]佩 十拳剣 しまへとひたまひて、

打折三段而 奴那登母母由良邇 [此八字以音 下效此]三段りて[而]、 [此の八字以る。下つかた此にふ]、

振滌 天之眞名井而 佐賀美邇迦美而 [自佐下六字以音下效此]に振りぎて[而]、て[而] [「佐」り下六字を以る。下つかた此にふ。]、

於吹棄氣吹之狹霧所成神 御名 多紀理毘賣命 [此神名以音] 亦御名 謂奧津嶋比賣命
吹きつる気吹に[於]、成りまさしし[所]神は、御名を命 といひて [此の、音を以る。]、奧津比売命ふ。

次市寸嶋[]比賣命 亦御名 謂狹依毘賣命: 次に比売命といひ、亦の御名を毘売命ふ。

次多岐都比賣命 [三柱此神名以音]: 次に多岐都比売命といふ。[三柱。此の神名音を以る]

【現代語訳】
このようにして、それぞれが天安河を挟んで向かい合い、ひを受ける時、
天照大御神は、まず、建速命が帯びる十拳剣を渡すよう、乞いました。
三本に打ち折り、その触れ合う音を鳴らしながら
に振りぎ、噛み砕き、
吹き出した息吹のに神が現れ、その御名を命 、またの御名を奧津比売命と言われ、
次いで、比売命、またの毘売命と言う。
次いで、比売命と言われます。
【解説】

【原文】
速須佐之男命 乞度 天照大御神 所纒左御美豆良 八尺勾璁之五百津之美須麻流珠而 奴那登母母由良爾 振滌 天之眞名井而 佐賀美邇迦美而 於吹棄氣吹之狹霧 所成神御名 正勝吾勝勝速日天之忍穗耳命 亦乞度所纒右御美豆良之珠而 佐賀美邇迦美而 於吹棄氣吹之狹霧 所成神 御名天之菩卑能命 [自菩下三字以音]
【読み下し文】

速須佐之男命 乞度 天照大御神 所纒左御美豆良 八尺勾璁之五百津之美須麻流珠而
の命、天照大御神の左のはしし[所の]八尺勾璁流珠したまへと乞ひまつりて[而]。

奴那登母母由良爾 振滌 天之眞名井而 佐賀美邇迦美而に振りぎ[而][而]。

於吹棄氣吹之狹霧 所成神御名 正勝吾勝勝速日天之忍穗耳命: 吹きつる狹霧に[於]、成りましし[所の]神、御名を正勝吾勝勝速日天之忍穗耳命といふ。

亦乞度所纒右御美豆良之珠而 佐賀美邇迦美而、右の[所]御(み)はしし[之]したまへと乞ひまつりて[而]て[而]、

於吹棄氣吹之狹霧 所成神 御名天之菩卑能命 [自菩下三字以音]
吹きつる気吹之狹霧に[於]、成りましし[所の]神、御名を天之卑能命 [「菩」り下つかた三字音を以る] といふ。

《》

【現代語訳】
速須佐之男命は、天照大御神の左の鬟にった八尺勾璁流珠を渡していただくことを乞ひ、
その触れ合う音を鳴らしながら、に振り滌ぎ噛み砕き、
吹き出した息吹のさ霧に神が現れ、その御名を正勝吾勝勝速日天之忍穗耳命と言われます。
また、右の御鬟に纒った、その珠を渡していただくことを乞ひ、噛み砕き、
吹き出した息吹のさ霧に神が現れ、その御名を天之卑能命と言われます。

【解説】

45(/)
【原文】
亦乞度所纒御𦆅之珠而 佐賀美邇迦美而 於吹棄氣吹之狹霧所成神御名 天津日子根命 又乞度 所纒左御手之珠而 佐賀美邇迦美而 於吹棄氣吹之狹霧 所成神 御名活津日子根命 亦乞度 所纒右御手之珠而 佐賀美邇迦美而 於吹棄氣吹之狹霧 所成神御名熊野久須毘命 [自久下三字以音 幷五柱] 於是天照大御神 告速須佐之男命「是後所生五柱男子者 物實因我物所成 故 自吾子也 先所生之三柱女子者 物實因汝物所成 故乃汝子也」如此詔別也
【読み下し文】

亦乞度所纒御𦆅之珠而 佐賀美邇迦美而 於吹棄氣吹之狹霧所成神御名 天津日子根命
亦、[所]御𦆅 はしし[之]を度したまへと乞ひまつりて[而]て[而]、 吹きつる気吹之狭霧に[於]、成りましし[所の]神、御名を天津日子根命といふ。

又乞度 所纒左御手之珠而 佐賀美邇迦美而 於吹棄氣吹之狹霧 所成神 御名活津日子根命
又、[所]左の御手にはしし[之]珠を度したまへと乞ひまつりて[而]て[而]、 吹きつる気吹之狭霧に[於]、成りましし[所の]神、御名を活津日子根命といふ。

亦乞度 所纒右御手之珠而 佐賀美邇迦美而 於吹棄氣吹之狹霧 所成神御名熊野久須毘命 [自久下三字以音 幷五柱]
亦、[所]右の御手にはしし[之]を度したまへと乞ひまつりて[而]て[而]、 吹きつる気吹之狭霧に[於]、成りましし[所の]神、御名を熊野久須毘命といふ。 [「久」自り下三字、音を以ちゐる。せて五柱な]

於是天照大御神 告速須佐之男命「是後所生五柱男子者 物實因我物所成 故 自吾子也 先所生之三柱女子者 物實因汝物所成 故乃汝子也」如此詔別也
於是天照大御神素戔嗚尊げたまはく、 「、生みまさえし[所の]五柱の男子物実が物に因る[所]に成るがに、りなれるみ子
に生みまさえし[所之]三柱の女子物実が物に因る[所]に成るがに、乃ちがみ子。此れ詔別が如し。」とつげたまひき。

【現代語訳】
また、御鬘 った、そのを渡していただくことを乞ひ、噛み砕き、 吹き出した息吹のさ霧に神が現れ、その御名を天津日子根命と言われます。
また、左の御手に纒った、その珠を渡していただくことを乞ひ、噛み砕き、 吹き出した息吹のさ霧に神が現れ、その御名を活津日子根命と言われます。
また、右の御手に纒った、その珠を渡していただくことを乞ひ、噛み砕き、 吹き出した息吹のさ霧に神が現れ、その御名を熊野久須毘命と言われます。
これにより、天照大御神が速須佐之男命に告げられるには、 「後で生んだ五柱の男子は、物の実質は私の物から成ったので、私からできた子なのです。
先に生んだ三柱の女子は、物の実質はお前の物から成ったので、ということは、お前の子なのです。この詔別に従いなさい。」と告げられました。

【解説】

6-47(1/)
【原文】
故其先所生之神多紀理毘賣命者坐胸形之奧津宮 次市寸嶋比賣命者坐胸形之中津宮 次田寸津比賣命者坐胸形之邊津宮 此三柱神者胸形君等之以伊都久三前大神者也 故此後所生五柱子之中 天菩比命之子 建比良鳥命 [此出雲國造・无邪志國造・上菟上國造・下菟上國造・伊自牟國造・津嶋縣直・遠江國造等之祖也] 次天津日子根命者 [凡川內國造 額田部湯坐連 茨木國造 倭田中直 山代國造 馬來田國造 道尻岐閇國造 周芳國造 倭淹知造 高市縣主 蒲生稻寸 三枝部造等之祖也]
【読み下し文】

故 其先所生之神 多紀理毘賣命者 坐胸形之奧津宮 次市寸嶋比賣命者 坐胸形之中津宮 次田寸津比賣命者 坐胸形之邊津宮
、其の先に生みし[所之]神、の命、胸形之奧津宮にし、次にの命、胸形之中津宮にし、次にの命、胸形之宮にす。

此三柱神者 胸形君等之以伊都久三前大神者也: 此の三柱の神胸形君

故此後所生五柱子之中 天菩比命之子 建比良鳥命 [此出雲國造・无邪志國造・上菟上國造・下菟上國造・伊自牟國造・津嶋縣直・遠江國造等之祖也]
、此のに生みし[所の]五柱の中、天菩比命 子、建比良鳥命
[此れ、出雲国造、 国造上菟上の国造下菟上の国造国造県直、 遠江の国造]

次天津日子根命者 [凡川內國造 額田部湯坐連 茨木國造 倭田中直 山代國造 馬來田國造 道尻岐閇國造 周芳國造 倭淹知造 高市縣主 蒲生稻寸 三枝部造等之祖也]
次に、天津日子根命 [凡川内国造、 額田部湯坐連茨木国造倭田中の直、 山代国造馬来国造道尻岐閉国造周芳国造倭淹知の造、
高市県主、蒲生稲寸三枝部造 ]

【現代語訳】
そして、その前に生みなされました神、の命は、胸形奧津宮に御座して、次に、の命は、胸形の中津宮に御座して、次に、の命者は、胸形の宮に御座す。
この三柱の神は、胸形君ら、これをもってお祀りするの大神とするものです。
また、この後に生みなされました五柱の子の中、天菩比命 の子、建比良鳥命は、すなわち、出雲国造、 武蔵国造上海上の国造下海上の国造国造
県直、 遠江の国造らの祖先であります。

次に、天津日子根命は、大河内国造、 額田部湯坐連茨城国造倭田中の直、山城国造馬来国造道尻岐閉国造周防国造倭淹知の造、
高市県主、蒲生稲寸三枝部造 らの祖先であります。

【解説】

6-48(1/)
【原文】
爾速須佐之男命白于天照大御神「我心淸明 故 我所生子得手弱女 因此言者 自我勝」云 而 於勝佐備 [此二字以音] 離天照大御神之營田之阿 [此阿字以音] 埋其溝 亦其於聞看大嘗之殿 屎麻理 [此二字以音] 散
【読み下し文】

爾速須佐之男命白于天照大御神「我心淸明 故 我所生子得手弱女 因此言者 自我勝」云
くありて、速須命 天照大御神 すに、「が心清く明かし。せる[所の]子、りて此れ言ふ自 と云ふ。」と。

而 於勝佐備 [此二字以音] 離天照大御神之營田之阿 [此阿字以音] 埋其溝
して、勝ち [此の二字、以を以てす] 天照大御神営田 [此の「阿」の字、を以てす] をち其の溝を埋めぬ。

亦其於聞看大嘗之殿 屎麻理 [此二字以音] 散大嘗之殿を聞き [此の二字、音を以てす]散らす。

【現代語訳】
さて、速須之男命天照大御神に申し上げるに、「私の心が清明だったからこそ、私が生んだ子に、か弱い女子を得たのです。ですから、これが物語るのは、自 ら私が勝ったということです。」と。
そして、勝ち誇り、天照大御神の営田(つくだ)の畔を毀損し、その溝を埋めてしまいました。
また、御殿で大嘗祭があると聞き、出かけて糞をし散らかしました。
【解説】

6-48(2/)
【原文】
故 雖然爲 天照大御神者 登賀米受而 告「如屎 醉而吐散登許曾 [此三字以音] 我那勢之命爲如此 又 離田之阿埋溝者 地矣阿多良斯登許曾 [自阿以下七字以音] 我那勢之命爲如此」 登此一字以音詔雖直 猶其惡態不止而 轉天照大御神 坐忌服屋而 令織神御衣之時 穿其服屋之頂 逆剥天斑馬剥而 所墮入時 天服織女見驚而 於梭衝陰上而死 [訓陰上云富登]
【読み下し文】

故 雖然爲 天照大御神者 登賀米受而 告「如屎 醉而吐散登許曾 [此三字以音] 我那勢之命爲如此 又 離田之阿埋溝者 地矣阿多良斯登許曾 [自阿以下七字以音] 我那勢之命爲如此」
る為すとども、天照大御神して[而]、りたまふに、屎の如きは ひて[而]り散らす [此の三字、音を以てす] 之命此の如くれ。」

登此一字以音詔雖直 猶其惡態不止而
[此の一字、音を以てす] りたまふと雖もほ其の悪しきずして[而]。

轉天照大御神 坐忌服屋而 令織神御衣之時 穿其服屋之頂 逆剥天斑馬剥而 所墮入時 天服織女見驚而 於梭衝陰上而死 [訓陰上云富登]
りて、天照大御神忌服屋して[而]、神御を織りめし[之]時、其の服屋頂 穿ち、斑馬逆剥ぎに剥ぎて[而]、としる[所の]時、服織女見、驚きて[而]、きて[而]死せり [「陰上」をみ、と云ふ]

【現代語訳】
ところが、こんなことをしたと言うのに、天照大御神めず、 仰るには、「糞のようなものは、酔って吐きちらすと、弟はこの程度をしたに過ぎません。」と。また、「田の畔を毀損して溝を埋めたのは、土が新しくすると、弟はこういうことをしたのです。」
と。このように仰ったにも関わらず、相変わらずで、そのまま悪態を止めませんでした。
却って、天照大御神斎服殿にいらっしゃり、神御を織るよう命じなされた時に、その斎服殿の屋根のてっぺんに穴を開け、天斑馬 逆剥ぎに剥いでにとし入れ、 服織女はそれを見て驚き、によって陰部をき、死んでしまいました。
【解説】

6-49(1/)
【原文】
故於是 天照大御神見畏 開天石屋戸而 刺許母理 [此三字以音] 坐也 爾高天原皆暗 葦原中國悉闇 因此而常夜往 於是萬神之聲者 狹蠅那須 [此二字以音] 滿 萬妖悉發 是以 八百萬神 於天安之河原 神集集而 [訓集云都度比] 高御產巢日神之子 思金神令思 [訓金云加尼]而 集常世長鳴鳥 令鳴而 取天安河之河上之天堅石 取天金山之鐵而 求鍛人天津麻羅而 [麻羅二字以音] 科 伊斯許理度賣命 [自伊下六字以音] 令作鏡 科 玉祖命 令作八尺勾璁之五百津之御須麻流之珠而
【読み下し文】

故於是 天照大御神見畏 開天石屋戸而 刺許母理 [此三字以音] 坐也 爾高天原皆暗 葦原中國悉闇 因此而常夜往 於是萬神之聲者 狹蠅那須 [此二字以音] 滿 萬妖悉發
、是に[於]天照大御神れ、天石屋戸を開き[而]、 [此の三字、を以てす] り[也]。
くありて、高天原皆暗く、葦原中国悉 く、此に因(よ)りて[而]常夜きぬ。是に[於]、万の狹蠅 [此の二字、音を以てす] 満ち、万の妖 悉 てり。

是以 八百萬神 於天安之河原 神集集而 [訓集云都度比] 高御產巢日神之子 思金神令思 [訓金云加尼]而
ちて、八百万の神、の安に[於]神集集 [而] [「集」をみ、と云ふ]、高御日神子、思金神  め [「金」をみ、と云ふ] [而]、

集常世長鳴鳥 令鳴而 取天安河之河上之天堅石 取天金山之鐵而 求鍛人天津麻羅而 [麻羅二字以音] 科 伊斯許理度賣命 [自伊下六字以音] 令作鏡 科 玉祖命 令作八尺勾璁之五百津之御須麻流之珠而
常世長鳴鳥を集め、鳴かめ[而]、 天安河 河上 天堅石を取り、 天金山  鉄 を取り[而]、鍛人天津ぎ[而] [「麻羅」の二字、音を以てす]、  [「伊」り下六字、音を以てす] をし、鏡を作らめ、 玉祖命  し、 八尺勾瓊之を作らめて[而]、

【現代語訳】
そして、これに天照大御神は御覧になり畏れ、天石屋の戸を開き、立てこもられてしまいました。
そのため、高天原は皆暗く、葦原中国は悉くく、これによって常夜が過ぎました。そこで、万の神の声がざわめき満ち、万の妖気が悉く発せられました。

これによって、八百万の神は、天安河 の河原に神の会議に集い、高御日神の子、思金神 に思案をさせました結果、
常世長鳴鳥を集めて鳴かせ、 天安河の川上の天堅石を取り、天金山の鉄 を取り、鍛人天津を求め、 石凝姥命 に担当させて鏡を作らせ、 玉祖命  に担当させて 八尺勾瓊之を作らせ、
【解説】

6-49(2/)
【原文】
召天兒屋命 布刀玉命 [布刀二字以音下效此] 而 內拔 天香山之眞男鹿之肩拔而 取天香山之天之波波迦 [此三字以音木名] 而 令占合麻迦那波而 [自麻下四字以音] 天香山之五百津眞賢木矣根 許士爾許士而 [自許下五字以音] 於上枝取著 八尺勾璁之五百津之御須麻流之玉 於中枝取繋 八尺鏡 [訓八尺云八阿多] 於下枝取垂 白丹寸手 青丹寸手而 [訓垂云志殿] 此種種物者 布刀玉命 布刀御幣登 取持而 天兒屋命 布刀詔戸言禱白 而 天手力男神 隱立戸掖而 天宇受賣命 手次繋天香山之天之日影而 爲𦆅天之眞拆而 手草 結天香山之小竹葉而 [訓小竹云佐佐] 於天之石屋戸伏汙氣 [此二字以音] 蹈登杼呂許志 [此五字以音] 爲神懸而 掛出胸乳 裳緖忍垂於番登也 爾高天原動而 八百萬神共咲
【読み下し文】

召天兒屋命 布刀玉命 [布刀二字以音下效此] 而 內拔 天香山之眞男鹿之肩拔而 取天香山之天之波波迦 [此三字以音木名] 而 令占合麻迦那波而 [自麻下四字以音]
天児屋命 命  [「布刀」の二字、音を以てす] 下、此れにふ] をして[而]、天香山 鹿肩を内抜きに抜きて[而]、天香山 天之を取り [此の三字、音を以てなす。木の名] て[而]、め[而] [「麻」り下四字、音を以てす]、

天香山之五百津眞賢木矣根 許士爾許士而 [自許下五字以音] 於上枝取著 八尺勾璁之五百津之御須麻流之玉 於中枝取繋 八尺鏡 [訓八尺云八阿多] 於下枝取垂 白丹寸手 青丹寸手而 [訓垂云志殿] 此種種物者 布刀玉命 布刀御幣登 取持而 天兒屋命 布刀詔戸言禱白
天香山 をば[矣][而] [「許」り下五字、音を以てす]、上枝に[於]、八尺勾瓊之を取りけ、中枝に[於]、鏡  [「八尺」をみ、と云う] を取りけ、下枝に[於]、を取り[而] [「垂」をみ、殿と云ふ]、此の種種の物の命、御幣取り持ちて[而]、天児屋の命、言祷せり。

而 天手力男神 隱立戸掖而 天宇受賣命 手次繋天香山之天之日影而 爲𦆅天之眞拆而 手草 結天香山之小竹葉而 [訓小竹云佐佐] 於天之石屋戸伏汙氣 [此二字以音] 蹈登杼呂許志 [此五字以音] 爲神懸而 掛出胸乳 裳緖忍垂於番登也
して、天手力男神、戸のに隠れ立ち[而]、天宇受売命天香山 天之日影け[而]、𦆅 天之を為し[而]、に天香山の葉をひ[而] [小竹をみ、と云ふ]、天之石屋に[於] [此の二字、音を以てす] を伏せ、踏み [この五字、音を以てす]。神懸かりて[而]、胸乳を掛きで、に[於]垂れぬ[也]。

爾高天原動而 八百萬神共咲くありて、高天原みて[而]、八百万の神、共にひき。

【現代語訳】
天児屋命 太玉命 を召し出し、 天香山の鹿の肩を打ち抜き、 天香山の天のははか[植物の名前]を取り、 占いを取り仕切り、
天香山 真榊を根こそぎ掘り起し、上枝には、八尺勾瓊之を取り着け、中枝には、八尺鏡 を取りけ、下枝には、を取りて、これら各種の物は、太玉命 が太御幣として取りまとめお供えし、 天児屋命 は、太祝詞を言祝ぎ申し上げました。
そして、天手力男神が、戸の脇に隠れ立ち、天宇受売命は、襷に天香山の蘿を着け、 鬘として天の真拆を着け、として天香山のの葉を結い、天之に桶を伏せ、踏み轟き、 神懸かりし、乳房をかきだし、の紐をまで押し下げました。 この様子に、高天原はどよめき、八百万の神は、一斉に笑いました。
【解説】

6-50(1/)
【原文】
【読み下し文】

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【現代語訳】






【解説】

【原文】
於是天照大御神 以爲怪 細開天石屋戸而 ?告者「因吾隱坐而 以爲天原自闇亦葦原中國皆闇矣 何由以 天宇受賣者爲樂 亦八百萬神諸咲」爾天宇受賣白言「益汝命而貴神坐 故 歡喜咲樂」如此言之間 天兒屋命・布刀玉命 指出其鏡 示奉天照大御神之時 天照大御神逾思奇而 稍自戸出而臨坐之時 其所隱立之天手力男神 取其御手引出 ?布刀玉命 以尻久米此二字以音繩 控度其御後方白言「從此以? 不得還入」故 天照大御神出坐之時 高天原及葦原中國 自得照明 於是八百萬神共議而 於速須佐之男命 負千位置戸 亦切鬚及手足爪令拔而 神夜良比夜良比岐 又食物乞大氣津比賣神 爾大氣都比賣 自鼻口及尻 種種味物取出而 種種作具而進時 速須佐之男命 立伺其態 爲穢汚而奉進 乃殺其大宜津比賣神 故 所殺神於身生物者 於頭生蠶 於二目生稻種 於二耳生粟 於鼻生小豆 於陰生麥 於尻生大豆 故是神??日御?命 令取茲 成種 故 所避追而 降出雲國之肥上河上・名鳥髮地 此時箸從其河流下 於是須佐之男命 以爲人有其河上而 尋覓上往者 老夫與老女二人在而 童女置中而泣 爾問賜之「汝等者誰」故其老夫答言「僕者國神 大山上津見神之子焉 僕名謂足上名椎 妻名謂手上名椎 女名謂櫛名田比賣」亦問「汝哭由者何」答白言「我之女者 自本在八稚女 是高志之八俣遠呂智此三字以音毎年來喫 今其可來時 故泣」爾問「其形如何」答白「彼目如赤加賀智而 身一有八頭八尾 亦其身生蘿及檜榲 其長度谿八谷峽八尾而 見其腹者 悉常血爛也」此謂赤加賀知者 今酸醤者也 爾速須佐之男命 詔其老夫「是汝之女者 奉於吾哉」答白「恐不覺御名」爾答詔「吾者天照大御神之伊呂勢者也自伊下三字以音 故今 自天降坐也」爾足名椎手名椎神白「然坐者恐 立奉」爾速須佐之男命 乃於湯津爪櫛取成其童女而 刺御美豆良 告其足名椎手名椎神「汝等 釀八鹽折之酒 亦作廻垣 於其垣作八門 毎門結八佐受岐此三字以音 毎其佐受岐置酒船而 毎船盛其八鹽折酒而待」 故 隨告而如此設備待之時 其八俣遠呂智 信如言來 乃毎船垂入己頭飮其酒 於是飮醉留伏寢 爾速須佐之男命 拔其所御佩之十拳劒 切散其蛇者 肥河變血而流 故 切其中尾時 御刀之刄毀 爾思怪以御刀之前 刺割而見者 在都牟刈之大刀 故取此大刀 思異物而 白上於天照大御神也 是者草那藝之大刀也 那藝二字以音 故是以 其速須佐之男命 宮可造作之地 求出雲國 爾到坐須賀此二字以音 下效此地而詔之「吾來此地 我御心須賀須賀斯而」其地作宮坐 故其地者於今云須賀也 茲大神 初作須賀宮之時 自其地雲立騰 爾作御歌 其歌曰 夜久毛多都 伊豆毛夜幣賀岐 都麻碁微爾 夜幣賀岐都久流 曾能夜幣賀岐袁 於是喚其足名椎神 告言「汝者 任我宮之首」且負名號稻田宮主須賀之八耳神 故 其櫛名田比賣以 久美度邇起而 所生神名 謂八嶋士奴美神 自士下三字以音 下效此 又娶大山津見神之女 名神大市比賣 生子 大年神 次宇迦之御魂神 二柱 宇迦二字以音 兄八嶋士奴美神 娶大山津見神之女・名木花知流此二字以音比賣 生子 布波能母遲久奴須奴神 此神 娶淤迦美神之女・名日河比賣 生子 深淵之水夜禮花神 夜禮二字以音 此神 娶天之都度閇知泥上神自都下五字以音生子 淤美豆奴神 此神名以音 此神 娶布怒豆怒神此神名以音之女・名布帝耳上神布帝二字以音生子 天之冬衣神 此神 娶刺國大上神之女・名刺國若比賣 生子 大國主神・亦名謂大穴牟遲神牟遲二字以音・亦名謂葦原色許男神色許二字以音・亦名謂八千矛神・亦名謂宇都志國玉神宇都志三字以音 ?有五名
【読み下し文】

《》

【現代語訳】

【解説】

古事記上巻4() [← 前へ]  [次へ →]