地磁気(geomagnetism、Earth's magnetic field)とは、
地球が保有する磁場(地球磁場)のこと。
地球内部の外核にある溶融した鉄の対流によって生じる電流が、
この磁場を発生させると考えられている。
磁場は、空間の各点で向きと大きさを持つ物理量(ベクトル場)である。
地磁気の大きさの単位は、
国際単位系の磁束密度の単位であるテスラ(T)である。
通常、
地球の磁場はとても弱いので、
「nT(ナノテスラ)」が用いられる。
以前に地球物理学で地磁気の磁束密度を表すのに使用されたガンマ (γ) は、
10
-9テスラ = 1ナノテスラ (nT) に等しい。
地磁気は太陽風から
地球を守るバリア(磁気圏)を形成し、
生命活動を維持する重要な役割も担っている。
地磁気は一定ではなく、日周変化、永年変化、
そして地磁気の逆転など、
様々な時間スケールで変化し続けている。
地球の磁場は、
概ね磁気双極子で(つまり、
地球の中心に仮想的に置かれた1つの棒磁石として)近似でき、
現在は北極部がS極、南極部がN極に相当し、
それぞれ北磁極と南磁極と呼ぶ。
ただし、非双極子部分は
地球上に“瞳のような形”で存在する(地表の磁場強度分布図)。
地磁気の磁力線は、赤道付近を除けば、地面に対して平行ではなく、
地面と斜めに交わるかたちになっている。
- 伏角
-
ある地点において水平面と地磁気のベクトルとがなす角を伏角といい、
地磁気が地面に向かって突き刺さる方向の場合がプラス、
地面から出て行く向きの場合がマイナスとなるように定義される。
伏角は、南半球のほとんどでマイナスで、
南の磁極に近づくにしたがって -90 度に近づく。
また、北半球のほとんどでプラスとなり、
北の磁極に近づくにしたがって +90 度に近づく。
- 偏角
-
地磁気のベクトルを水平面に投影したとき、
地理上の真北となす角を偏角と呼ぶ。
偏角の最も大きい要因は、
地球の双極子磁場が自転軸に対して傾いていることである。
地球の双極子磁場は自転軸に対して約 10.2 度(
西暦2006年)傾いているため、
地理上の極と磁極の位置にはずれがある。
地磁気の極には「磁極」と「地磁気極(または磁軸極)」という2つの極がある。
- 磁極
-
北磁極は方位磁針のN極が真下を向くところで、
南磁極は方位磁針のS極が真下を向くところである。
現在、磁極は地球の中心に対して対称な位置にはない。
- 地磁気極(または磁軸極)
-
地磁気北極(北磁軸極)、地磁気南極(南磁軸極)は、
地球の磁場を磁気双極子としたとき、
地磁気の分布が観測された分布図と同じになる棒磁石の長さ方向への延長線が地表面へ出てくる2地点である。
地磁気極は地球の中心に対して対称な位置にある。
現在、伏角が -90 度あるいは +90 度になる点、磁極は、
地球双極子磁場の極、地磁気極とは一致していない。
磁北極(北磁極)、磁南極(南磁極)と地磁気北極、
地磁気南極は移動している。
仰俯角
仰俯角(ぎょうふかく)は、
水平を基準とした上下方向の角度。
上向きの角度を仰角(ぎょうかく)、
下向きの角度を俯角(ふかく)または伏角(ふかく、ふっかく)という。
天文学の地平座標系では高度(こうど)という。
0°~360°の方位角と-90°~+90°の仰俯角で、
3次元空間内の1方向を特定することができる。
これに距離を加えれば、極座標系となり、
3次元空間内の1点を特定することができる。
磁気偏角
磁気偏角(magnetic declination または magnetic variation)は、
真北(北極点)と方位磁針が指す磁北(北磁極、地磁気が示す北)とのずれのことである。
単に
偏角とも呼ばれる。
日本における磁気偏角
日本での磁気偏角の値は、ほぼ -4から-11 度である[1]。
負の数であるので、
真北よりも磁北のほうが西にずれている(西偏という)。
本州全域ではほぼ -8 度であり、
沖縄県の石垣島では約 -5 度、
北海道の大部分では約 -10 度である。
磁気偏角の測定
地磁気は、地球核の対流などの要因で長い期間をかけて変化している。
そのため、継続的に学者たちによって測定され、
測定されたデータは、アメリカ地質調査所、国土地理院などで公開されている。
磁気嵐の影響で極付近では30°、中緯度では約2°の誤差が出る場合がある。
- 測定方法
-
天測により、ほぼ正確に真北がわかるので、
そこから磁針のずれを見ればよい。
この測定に使われる器具は、傾角計 (declinometer) と呼ばれる。
磁気偏角以外の磁針のずれ
磁気偏角以外でも、磁針にずれが生じる例がある。
- 磁気異常(Magnetic anomaly)- 地中の磁鉄鉱、鉄の鉱床などの影響も受ける可能性がある。
- 自差(Magnetic deviation)- 船や飛行機は、大気や海などの摩擦によって磁気を帯び、方角を示すコンパスを狂わせる。この狂いを自差と呼ぶ。
- 磁気伏角(Magnetic dip) - 地磁気の3要素のひとつで、磁針が下側を指す角度。
地磁気逆転(geomagnetic reversal)とは、
地磁気の向きが南北逆になることである。
地磁気の反転、
地球磁場の逆転(reversal of geomagnetic field)ともよばれる。
...
研究の歴史
西暦1600年に、
ウィリアム・ギルバートが
地球は一つの大きな磁石であると主張した。
西暦1828年には、
カール・フリードリヒ・ガウスが地磁気の研究を開始した。
さらに
西暦1906年には、
ベルナール・ブリュンヌによって現在の地磁気の向きとは逆向きに磁化された岩石が発見された。
西暦1926年、
京都帝国大学(現在の京都大学)教授の松山基範が、
兵庫県の玄武洞の岩石が、
逆向きに磁化されていることを発見した。
松山はその後、国内外36か所で火成岩の磁気の調査を行い、
他にも逆向きに磁化された岩石を発見した。
松山は
西暦1929年、
地磁気逆転の可能性を示す論文を発表した。
当時の常識に反する考え方だったため、当初の評判はよくなかった。
その後、古地磁気学が盛んになり、年代測定の技術も進歩した。
その結果地磁気が逆転を繰り返していることがはっきりしてきた。
西暦1964年には、
アメリカの研究グループが地磁気極性の年代表を発表した。
このとき、アラン・コックスは2つの「逆磁極期」(反対は「正磁極期」)のうちの1つに、
松山の名前を選んだ。
現在判明している逆転期
過去360万年の間に11回は逆転し、
現在では、2つの逆磁極期があったことが判明している。
589.4万年前から358万年前の逆転期は、
「ギルバート」と名づけられ、
258.1万年前から78万年前の逆転期は「松山」と名づけられている。
なお、国立極地研究所らの研究によれば、
より精密な年代決定を行った結果、
最後の磁気逆転の時期は約77万年前と報告されている。
|
No. |
名 称 |
始 期 |
終 期 |
新 ↑ ↓ 古 |
1 |
ブリュンヌ期(ブリュンヌ正磁極期) |
77.4万年前 |
現在 |
| 2 |
松山期(松山逆磁極期) |
258.1万年前 |
77.4万年前 |
| 3 |
ガウス期(ガウス正磁極期) |
358 万年前 |
258.1万年前 |
| 4 |
ギルバート期(ギルバート逆磁極期) |
589.4万年前 |
358 万年前 |
地層
77万年前に磁場逆転した証拠となる地層は、
千葉県市原市田淵の養老川沿いの崖面(千葉セクション)とイタリアのモンテルバーノ・イオニコとビィラ・デ・マルシェに存在する。
原理
地球が地磁気を持つ仕組みは解明されつつあるが、
地磁気逆転がどうして起きるかは、いまだに分かっていない。
影響
それまでは地磁気によるローレンツ力で弾かれていた宇宙線について、
大気圏への入射量が増えると思われる。
特に、地磁気反転期など双極子成分が弱くなり、
相対的に四極子(4重極)成分が卓越する地磁気イベントや、
地磁気エクスカージョンにおいては、
中低緯度域で顕著となる可能性が高い。
そうなると大気が電離し、氷結核が増加すると予想される。
氷結核が増加すると、過冷却状態の水蒸気が凝結して雲の発生が増える。
よって、日射量が減少して気候が寒冷化すると思われる。
また、これが氷期の到来等の気象変動の要因になるという説がある。