アラブ人の名前(イスラム圏の人々の名前)
作成日:2023/10/30
クンヤ
クンヤ(kunya(h))
- 近親呼称
- 尊称 例:第2代正統カリフ ウマルの別名 [ ’al-fārūq ] [ アル=ファールーク ](裁定者、真偽を見分ける者、分断者、物事を分け隔てる者、物事を2つに切り分ける者)
- モロッコなどでは出自表示のいわゆるニスバ(現代マシュリク諸国におけるラカブ)と呼ばれるパーツ
「アブー・◯◯(◯◯の父)」「ウンム・◯◯(◯◯の母)」の形を取る。
父、母以外にも息子、娘、兄弟、姉妹それに「父方/おじ、おば」や「母方/おじ、おば」も含まれる。
クンヤについては辞典の定義によると
- その人への尊敬を示す
- その人の特定時期の様子・外見・特徴が由来となってクンヤで呼ばれる例が古くからあった
- 験担ぎ・幸せを願って赤ちゃんをクンヤで呼ぶことがある
- 本来のファーストネームよりも周囲での認知度が高くなり、その名前で広く知られるケースが多い
となっている。
イスム
[ ’ism ] 英語表記:Ism 日本語表記:イスム
一般的な名詞として[イスム] が持つ意味は
- (物・事・人などの)名前、名称
- (文法用語として)名詞
となっている。
人名としては主に本人の名前(ファーストネーム)のことを指す。
形容詞をつけて修飾が行われた場合にはフルネームといった熟語の「ネーム」部分として使われることも。
この [ イスム ] に数詞に関連した形容詞をつけると、
パーツ数によって長さが異なるフルネーム(2パーツフルネーム、3パーツフルネーム、4パーツフルネーム等)のどれに相当するかが表現される。
ナサブ
ナサブは「Cの息子、Bの息子、Aの息子あるいは娘であることろの○○」と表現する。
ナサブはその人の系譜・父方の家系を示すために イブン(ibn)、
アラビア語口語では ビン(binなど)や ビント(bint)を使って
- 男性
-
◯◯ ibn A ibn B ibn C ibn D
◯◯ bin A bin B bin C bin D
(Dの息子Cの息子Bの息子Aの息子であるところの◯◯)
- 女性
-
◯◯ bint A ibn B ibn C ibn D
(Dの息子Cの息子Bの息子Aの娘であるところの◯◯)
と表記する方法を指す。
アラブ世界の伝統的な人名は、
本人のファーストネーム - 父 - 祖父 - 曽祖父
と父方の先祖をたどることでその人の系譜を示している。
一番最初に本人のファーストネームを持ってきて、
- 自分は父の息子である
- 父は祖父の息子である
- 祖父は曽祖父の息子である
というふうに父系の家系がわかるようになっている。
歴史上の人物のフルネームは一般的にこの形式で書かれている。
なお同じ ibn [ イブン ]、bint [ ビント ] を使っているので紛らわしいが、
その人のファーストネームの代わりに通称として使う「イブン・◯◯」や「ビント・◯◯」の場合は、
クンヤという近親呼称になる。
ニスバ
ニスバ(nisba(h)) 英語表記:Nisba、Nisbah
アラブ人名のフルネーム中における出自表示である。
品詞としては名詞に分類され、通常の文脈では
といった意味で使われているが、
アラブ人名フルネームに関しては、
自分の出自・由来に関する語を形容詞化するなどして、
名乗りのパーツ後方に加えた帰属先表示を指す。
アラビア語には形容詞という品詞は無く、
アラブ式の文法学だと 「名詞が先行する名詞を修飾している」 といったとらえ方をするが、
ここでは日本におけるアラビア語教育の標準に従い”形容詞”としている。
『岩波イスラーム辞典』ではニスバに関し以下のような説明がなされている。
- 「ナサブ」の項目において「同根のアラビア語ニスバは部族、出身地などを示すものとして人名に用いられる」
- 「名前」の [ 同名者の識別法 ] において「ニスバ(職業, 出身地や部族などによるもの)」
-
本人または祖先の誰かが従事し, それで著名となった職業からとる場合(例:ワッラーク=紙屋)や、本人または祖先がその出身地である地名からとる場合
(例:マッキー=マッカ出身の)
ラカブ
ラカブ(laqab)はアラビア語であだ名、称号、添え名を意味する名詞。
「◯◯さんといえば~」、「~なことで有名な◯◯さん」と、
人物を一人に特定できるような内容なので、
英語の「the ◯◯」と同じく、
定冠詞の「al-」(アル)を添えて本人の名前と並べる。
褒賞として与えられる称号としてのラカブを除き、
一般的なあだ名としてのラカブは称賛という良い意味から、
非難・侮蔑といった悪い意味まで様々な使い方がある。