小窓
宇宙マイクロ波背景放射

作成日:2024/4/21

宇宙マイクロ波背景放射  英語:cosmic microwave background  略称:CMB

宇宙マイクロ波背景放射は、 天球上の全方向からほぼ等方的に観測されるマイクロ波である。 そのスペクトルは2.725Kの黒体放射に極めてよく一致している。

単に宇宙背景放射(cosmic background radiation; CBR)、 マイクロ波背景放射(microwave background radiation; MBR)等とも言う。 黒体放射温度から3K背景放射3K放射とも言う。 宇宙マイクロ波背景輻射宇宙背景輻射などとも言う(輻射は放射の同義語)。

CMBの放射は、 ビッグバン理論について現在までに得られている最も確かな証拠と考えられる。 CMB西暦1960年代中頃に発見されたことで、 定常宇宙論はじめとするビッグバン理論と対立する説への興味は失われていった。

CMBはジョージ・ガモフ、ラルフ・アルファー、ロバート・ハーマンによって西暦1940年代に予言され、 西暦1964年にアメリカ合衆国のベル電話研究所(現:ベル研究所)のアーノ・ペンジアスとロバート・W・ウィルソンによってアンテナの雑音を減らす研究中に偶然に発見された。 ペンジアスとウィルソンはこの発見によって西暦1978年にノーベル物理学賞を受賞した。

検出、予言、発見

CMBの解釈をめぐっては、 西暦1960年代に「CMBは遠方銀河の恒星からの光が散乱されたものである」とする定常宇宙論の支持者との間に激しい議論が巻き起こった。 西暦1941年にアンドリュー・マッケラーがこの散乱光モデルを採用し、 恒星の幅の狭い吸収線の研究に基づいて、 「星間空間の'回転'の温度は2Kになる」とする論文を発表しており、 同時期にエディントンなども同様の説を提案していた。 ガモフらは当初、 背景輻射の温度として約5K程度を予想していた一方で、 散乱光モデルを支持する研究者たちは2 - 3Kになるというモデルを提案し、 輻射の温度の予測値だけを見ると散乱光モデルの方が現実の値に近いものであった。 しかし西暦1970年代に入ると、 研究者たちのコンセンサスはCMBがビッグバンの名残であるとする説に傾いていった。 天文学者たちのコミュニティがCMBの成因としてビッグバンを支持するようになったのは、 星の光の散乱光というモデルから期待されるよりもCMBがずっと滑らかである(非等方性が小さい)という観測結果が積み重ねられたためである。

電子レンジの原理から分かるように水はマイクロ波を吸収するため、 CMBを地上の観測機器で観測するのは非常に難しい。 そのため、 CMBの研究では大気圏または宇宙空間で観測装置を用いることが多くなっている。 飛行機による観測で双極成分の存在が確認された。 地上でのCMBの観測は、 チリのアンデス山脈や南極といった高度の高い場所や極地で行われている。

CMBとビッグバン

標準的な宇宙論によると、 CMBは、 宇宙の温度が下がり電子と陽子が結合して水素原子に変わることで宇宙が放射に対して透明となった時代の「スナップショット」とされる。 これはビッグバンの約40万年後で、 この時期を「宇宙の晴れ上がり」あるいは「再結合期」などと呼ぶ。 この頃の宇宙の温度は約3,000Kであった。 この時以来、 輻射の温度は宇宙膨張によって約1/1,100にまで下がったこととなる。 宇宙が膨張するに従って CMBの光子は赤方偏移を受け、 宇宙のスケール長に比例して波長が延び、 結果的に輻射は冷える。 この背景放射がビッグバンの証拠とされる理由について、 詳しくはビッグバンを参照のこと。

CMBが生まれた後、いくつかの重要な事件が起こった。 CMBが放射された時期に中性水素原子が作られたが、 銀河の観測から、 銀河間物質の大部分は電離していることが明らかになっている(すなわち、遠くの銀河のスペクトルに中性水素原子による吸収線がほとんど見られない)。 このことは、宇宙の物質が再び水素イオンに電離した「宇宙の再電離」の時代があったことを示唆している。 これについてよくなされる説明は、 初期宇宙で生まれた大量の大質量星からの光によって再電離が起こった、 とするものだが、 再電離自体は宇宙に恒星が大量に存在する時代より昔に始まったという証拠もある。

CMBが放射された後、 最初の恒星が観測されるまでの間、 観測可能な天体が存在しないことから、 宇宙論研究者はこの時代をユーモア混じりに暗黒時代(dark age)と呼ぶ。 この時代については多くの天文学者によって精力的に研究されている。

CMBよりも外側は宇宙の晴れ上がり前の状態であり、 光学的に見知ることができないため、 地球からCMBの内側までが可視宇宙(宇宙光の地平面)(半径約457億光年)とされる。 CMBよりも外側の外縁部はビッグバン当初の光よりも速く遠ざかっている領域であり、 速度的に光が内側に届かないため原理的に観測不可能とされ、 地球からこの位置までが観測可能な宇宙(半径約465億光年)とされる。 宇宙論で「宇宙」という用語は、 この観測可能な宇宙のことを指す。 観測可能な宇宙の外側は不明であり、 無限に広がっているという説も有限であるという説も存在する。 光速よりも速く広がっているため、 ワープ技術でも開発されないかぎり原理的に不可知な領域であるため、 現在では「因果的に切り離されている宇宙」と表現されることもある。